2010年7月
唯一の有給スタッフだったジャムシェールに止めてもらってから半月以上が経った。その間、民家に比べるとかなり大きい造りのAkikoの家の2階に私1人で寝泊まりしている。
4月から6月まで村に滞在していたKさんには、カラーシャの婿になったにもかかわらず、チトラール警察やチトラール知事から何度も何度も呼び出されて、「外国人は狙われる。危ないから早く谷を去れ」としつこく勧告を受け、宿の部屋は危険だからとゲストハウスの家族と一緒の部屋に寝起きさせられていた。
私が日本から戻った5月も、アユーン巡査長たちが2、3度やってきて、「あんたの安全のために、家の前の庭にテントを張って警官を常駐させる」というもんだから、「いやいやけっこう。自分の敷地に警官とはいえ知らない男性がいるというだけで落ち着かないから(気持ちが悪いと正直には言わなかった)。ジャムシェールが24時間いてくれるから全く問題ないです。彼の弟も図書室で寝てくれてるし」と柔らかく断った。(実際は、6月になってからはジャムシェールは昼間はほどんどおらず、夜10時すぎに2階のベランダのベッドに外から入って勝手に寝てるだけだったが。)
しかし、2匹の犬が毒殺されたり、図書室の窓の金網が50センチほど切られていたりしたことで、何か不気味な感じがしないわけでもなかったんで、口では大丈夫と言いながらも、6月20日に2階の部屋に移った当初は、四方から見られているかも知れないと、電気はカーテンをきっちり閉めてからしか付けないなど用心していた。
2階の窓にガラスを入れ、棚を作ったり、下から少しずつ荷物を移動させて、新しい部屋も住み易くなりつつある。治安も少し良くなった感じもするし、子犬がいることも少しは心強い感じがするし、2階に住むのにも慣れたのか、びくつくことがなくなった。非常に重い物を持つなどの力仕事以外は全部自分でこなしている。
ジャムシェールがいる頃は彼に仕事を与えなければならないので、自分でやらずに取っておく。しかし彼に「これこれをやっておいてね」と言っても6月はほとんどやってくれてない。そうすると腹も立つ。彼がいないと、おのずと自分でやるんで万事スムーズで精神的にもよろしい。
つい先日、ジャムシェールもここで寝てないと聞いて、「村のすぐ上流にテントを張って住み込み始めたアユーンの警官を庭に泊まらせる」と上からの達しがあったらしい。警官への食事はジャマットが面倒みるというんで、庭だったらどうぞとベッドと布団を用意した。翌朝ベッドを見ると人が寝た形跡がない。訊くと、警官は1人で外で寝るのがこわいと言うことで来なかったという。一体何のために警官がいるのだ。外国人の安全を守るということで警察のチェックポストもでき、新しく警官も増やしたはずなのに全く役に立っていない。
役に立つどころか警官は村人に損失を与える。乗り物のただ乗りは目をつぶるとして、民家でのただ食いだけでなく、下手すると、ワイン、焼酎などをせがまれる。ボンボレットに数日泊まってからサイフラー・ゲストハウスにやってきた日本人旅行者の話では、安全のため同行した年配の警官は知り合いが多くて、道ばたで会うほとんどすべての人と挨拶して立ち話をする、お茶を飲みたくなったら民家に立ち寄るので、予定の到着時刻より3時間も遅れた。こちらのゲストハウスに着くと、村の警官や知り合いが寄ってきて、旅行者は彼1人なのに警官や取り巻きたち7人分の食事をゲストハウスは差し出すはめになって申し訳なかったという。食事の後、警官たちは旅行者を差し置いて焼酎とハッシッシの宴会を開いていたという。
こういうへっぴり腰で飲み喰いのことしか考えていない警官たちに安全を任せるのがまちがいで、ここでは自分の安全は自分で守るしかない。私の場合は神と子犬に委ねているが。