この1年間、ダジャリの二男、3歳になるサジャッタリの家族は、サジャッタリの腹痛のことで安寧できない。腹痛が始まると3〜4日間は母親の腕の中からいっときも離れず、食事も取らず、泣いてばかりいる。腹痛がひどくなると、それが夜ということも多く、高い金額で車をチャーターしてチトラールの病院に連れていかねばならない。病院に2〜3日入院するとだいたい治まり、家に戻ってくる。
しかし、また1ケ月ほどすると、腹痛が始まり、同じことがくり返される。チトラール市民病院の小児科の医者、内科の医者、町の医者と、チトラールの子供を診てもらえるすべての医者にかかったが、根本的な原因、どうして腹痛がくり返し起こるかが明確でない。
便通が4日に一度というサジャッタリの腹はたいていパンパン。この便秘症に加えて腹に虫がいるのではと私は疑っていたが、何人目かの医者にかかったときに調べてもらって「虫はいない」と言われたということから、それ以来虫はいないと母親は思っている。でもカラーシャの生活環境では虫がいない方がおかしい。以前、外国の医療チームがルンブールの小学校の生徒を調べたら、すべての生徒に虫がいたときいたことがある。
またカラーシャの食生活は主食(とうもろこしと小麦)にバターミルクなどの乳製品、あるいはチャイをおかずにするだけで、野菜料理が圧倒的に少ない。砂糖はなにが何でも優先して買うが、玉葱以外野菜にお金は使わない。こういった食生活にも問題があると前から思っていて、機会あるごとにカラーシャたちにも「野菜を食べるよう」言っているが、まだまだ肉や油を好む傾向は変わっていない。
今回6月初め、サジャッタリが再び腹痛でチトラール病院に連れて行かれた。また数日したら良くなって戻って来るだろうと思っていたが、3日しても良くなるどころか、いっさい食べ物を口にせず、吐くばかり。子供用のシロップ薬を飲ませても吐いてしまうという。チトラールの医者は完全に治すことができないなら、ペシャワールに連れていかねばと思っているところへ、6月5日の午後、付き添いで病院にいるジャマットから電話があり、「サジャッタリがやばい。ペシャワールに連れていくから、一緒にきてくれ」と言う。「明朝の乗り合い車で、そっちの病院に行く」と返事すると、「明日じゃだめだ。車をチャーターして今日中に来てくれ」とただ事でない様子で言われたので、最小限の荷物を急いでまとめて、チトラールに急ぐ。しょっちゅう病人に付き添い、病院のことについてくわしく、ウルドゥー語もできるグリスタンも連れていくことにする。
暗くなってチトラールに着く。病院の小児科病棟でサジャッタリは母親に抱かれて気分悪そうにしている。3日間食べてないので身体全体が青くなっていて、目のまわりは黒く落ち込んでいる。その日は水も飲まないという。嘔吐は続き、吐くものがないので、吐いた液体に血が混ざっていたと、母親は泣き声になっている。病院にいるから点滴は時々やってもらっているようだが、水も飲まないとなると、小さい子供はすぐに脱水症になり危ない状態になることはしろうとの私でも知っている。
チトラール病院で書いてもらったペシャワール向けのリファレンスには、MRIかCTSが必要と書かれている。受ける前の制約がたくさんあるMRIやCTSを、水を飲むよう言っても嫌なときは断固として飲まないような、こんな小さい子供がちゃんと受けることができるのだろうか疑問ではある。
ルンブールでチャーターしたカラーシャの車をそのままチャーターして、ラワリ峠(3150m)の向こうのディールの街まで行ってもらうことにする。カラーシャの民族衣装は暑いし、目立ち過ぎるので、私が持ってきたシャワール・カミーズにサジャッタリの母さんは着替え、グリスタンは従妹から借りたシャワール・カミーズに着替える。私は家ですでにシャワール・カミーズ姿になっていた。
夜9時ごろチトラール出発、ラワリ峠を越えて(寒かった)ディールに着いたのが午前3時。そこでうまい具合に車をチャーターできて、ペシャワールに朝9時すぎに到着した。
道中、車の中でも、極力、坊やに水分を取るよう、水やジュースを一口でもとなだめすかして取らしていたが、チトラールの病院で吐きながらも取っていたシロップが効いたのもあってか、ペシャワールに着いたら、坊やは水やジュースを自分から飲むようになり、ナンも少し食べるようになった。
停電になりそうなので、この続きは次回にします。
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hussain (水曜日, 05 8月 2015 23:06)
こんにちは。パキスタン人の男性と結婚を控えているので、友人から「パキスタンに嫁に行く」を進められて読みました。とても興味深く一気に読んでしまいました。この坊やはその後元気になりましたか?
わだ晶子 (木曜日, 20 8月 2015 14:34)
「パキスタンに嫁に行く」を読んでいただきありがとうございました。ご結婚おめでとうございます。あれは20年前に出版したもので、その後いろいろな展開があり状況は変わっていますが、基本的にはあちらに住んでいます。おかげさまで、あれから坊やは元気になりましたが、今私は一時帰国で日本にいるので、今の状態はわかりません。カラーシャ谷は7月から8月に数回起こった鉄砲水の災害でインフラすべてが破壊されているので、そちらも心配です。