犬のタローと耳

 私の飼い犬のタローは、私の留守中の半年間、最初の頃は山羊の放牧に行くサジャットの父さんについていっていたが、夏の高地の放牧場には連れていってもらえず、村でサジャットの家族が面倒をみていた。昼間は私の家の周りにつながれ、夜に放されていたよう。

 6月で1歳になったタローは、メス犬の後を追いかけるようになって、餌も食べずに出かけっぱなしの時もあり、体中ノミだらけになり痩せ細った。あまりのノミの数に、サジャットの父さんが虫駆除スプレーをタローに撒いてノミが減ったという。私はそのスプレーでタローがさらに弱ったと推測するが、サジャットの家族たちもタローのために良かれと思ってやったので、文句は言えない。ただ「スプレーは犬にも害をおよぼすんだよ。私だったらスプレーよりシャンプーしてやるけどね」と言っただけ。

 

 可笑しいのは、数人の村人にこう言われたことだ。「バーバの犬は一時えらくやせ細って死ぬんじゃないかと思ったほどだよ。やっぱり、耳を切ってないから、他のオス犬とメスの奪い合いになるときに、耳を噛まれて不利になって負けちゃって、あんなに痩せたんだよ

 

  カラーシャや遊牧民のオス犬は、小さい頃に両耳を切られる運命だ。私はタローの耳はそのままにした。「どうして切らないのか。俺が切ってやるよ」とずい分言われたけど、「耳が必要だから、神様がくれたんじゃない。日本でもどこでも犬の耳は切らないよ」と断固として頑張ったのだ。耳を切られたワン公は、なんかとぼけた顔になるか、狼ようなに野性味のある顔になるか、とにかく犬顔から少しずれた顔になる。

 

 

 6ヶ月ぶりに再会した時、タローはうちの裏側につながれて丸まって寝ていた。私が声をかけると、ほんの一瞬ポカーンとした顔をしたが、すぐに顔を私の服にグイグイ押し付けて喜んだ。それ以降は、もうサジャットの父さんに付いていくこともなく(たまに付いていってもらいたい時もあるのに)、もうべったり私のそばにいる。最初は確かに痩せていたが、今は河原や斜面をダッシュで走りまわり(とにかくタローは走るのが大好き)、餌もバランスを考えて与えているので、健康体になっている。