フィダ上院議員に申請書

 イスラマバードに1週間ばかり行ってきた。ラワリ・トンネルが一般に開通するようになり、冬の間5、6ヶ月間、陸の孤島だったチトラール地方も、欠航だらけの飛行機だけに頼ることなく、ペシャワールやイスラマバードに陸路で行けるようになって、トンネル建設には反対だった私も恩恵を受けている。

 

 

 イスラマバードに行ったのは、一つはここ数年間ドイツに住んでいて一時帰国しているファジアと、25年前からの家族ぐるみの付き合いをしていて、昨年国会の上院議員になったペシャワールのフィダさんに会うためだった。フィダさんとの面会には、地元の学校のことに詳しくウルドゥー語も英語もできるヤシールにも来てもらった。

フィダ上院議員に面会

 上院議員になる前から多忙のフィダさんは電話してもつかまらないので、ここ最近はフィダさんとは話もしていなかったが、彼の家族からは時々電話がかかってくる。暮に三男のイシテシャームから電話があった際、たまたまフィダさんがそばにいたのでフィダさんとも少し話ができたが、その時、「何か力になることはないか?」と訊かれて、「私自身は元気だし、何も問題ないけど、一つ、心を痛めていることがある。それは子供たちの健康と谷の環境問題の件です」と答えると、「ではイスラマバードに来た時に話し合おう」と言ってもらったので、会いに行くことにしたのだ。

 

 昨年10月のブログ「村の変化」でスナック菓子の袋ゴミの問題について少しお知らせしましたが、あの後、仮校舎の小学校と、昨年新しくできた中高校を見学した際、学校の周りが特にスナック菓子の袋ゴミが多いことに驚き、それはお腹が空いた生徒たちが昼休みに近くの店でスナック菓子を買い、食べたらその辺にポイ捨てするからだと気づいたのだ。学校の近所に家がある生徒たちは家に帰って軽く食事をするので、全員が菓子を食べているわけではないが、何せ冬時間では、小学校の2年生から高校生までムスリムの生徒も入れて全部でおよそ450人もの生徒の数だ。

 

 彼らの半分としても220人が毎日菓子を食べてぽいぽいゴミを捨てるとなると、1年後はどうなることか、5年後、10年後にはどうなっていることか。パキスタンは日本と違って人口構成はピラミッド型、子供はどんどん増えている。特に辺境の村では真剣に家族計画を考える人はいない。避妊を推進する母子保健の仕事をしている村の女性すら5人子供がいる。

 

 何よりスナック菓子自体、子供たちの健康被害が及ぶことが懸念される。この辺りの店で売られている袋菓子はどこぞやの田舎で家内制手工業風に作られて袋詰めされているという。衛生面でも栄養面でも問題が多いとされるわけのわからないスナック菓子を、成長盛りの子供たちが毎日食べたらどうなるか考えただけでも恐ろしい。味が濃いスナック菓子に慣れた子供たちは、食事の時も菓子を食べ、きちんとした食事を取らなくなってさえいる。

 

 スナック菓子が健康に悪いといっても、450人のよその子に食べるなと強要するのは不可能だ。いろいろ考えた結果、昼休みの給食を考えついた。本当は学食があればいいのだろうが、食堂の建物や設備に相当予算がかかるし、有料のメニューだとしたら、経済的に困難な家庭の子たちは食べれないかもしれない。

 

 そこでまず1年間、簡単なメニュー、ナンとダール、ナンとミルクティーを一日置きに生徒全員に無料で出すことを思いついた。1年間で生徒たちの健康面ですぐに答えが出るかどうかはわからないが、周囲の袋菓子のゴミはかなり減るのではと思う。どうなるか試してみたいという相談をフィダさんにしたわけだ。

 

 小学生はナンを半分、中高生はナン一枚、食事係2人、責任者1人ということで、見積もってみると1年間で230万ルピー(日本円200万ぐらい)となった。フィダさんはお金の方は問題ないが、こういう内容の援助はかなり難しいと頭をひねっていた。どこの国も似たようなもので、政府からお金を引き出すのは、関係者においしい利益が入り易い建物や工事の援助が歓迎され、私が提案したものは1ルピーも儲からないので現実的ではないということだ。

 

 フィダさんはしかし、教育大臣と毎朝1時間、議員会館のジムで顔を合わせるので、話をしてみるということだ。だいたいが昨年新しく総理大臣の座についたイムラン・カーン氏自身は環境問題についてかなり力を入れており(本人だけという感じだが)、ショッピング袋を減らすためにマイバッグを各家庭に配ったり、伐採が激しい山林に植林活動を促したりしている。残念ながら、マイバッグは私はありがたく使わさせてもらっているが、うちの村では誰も使っていない。配る時にきちんと説明しないので、みんなただの入れ物だと思って、ぞれぞれなんやかんやを入れて家の壁に吊るしてあるだけだ。

 

 ま、厳しい現状ではあるが、ひょっとして教育大臣、イムラン・カーン総理大臣が興味を持つかもしれないし、他の機関が手を上げてくれるかもしれないことを願っている。