カラーシャとコロナウイルス/ Kalasha and Coronavirus 

 イスラム教徒の断食明けのイード祭を前にして、3月21日からロックダウンしていたのが、5月18日におよそ2ヶ月ぶりで解除されたので、今日は腎臓を患い始終腹痛を感じる妊娠7ヶ月のサジャットの母さんを女医さんに診せにチトラールに来ている。

 

 

 パキスタンはコロナウイルス感染者合計43,966名、死者939名、回復者12,432名(The News International、19/5/2020より)。危惧されていた割には死者は少なく(本当のところは神のみぞ知る)、それでもコロナ感染対策にかこつけて海外機関から多額の援助金をもらおうと、政治家たちは大げさぶって都市封鎖をしたらしい。そしていつもの通り政治家や役人は援助金で懐を潤し、小規模の店屋の主人たちは商売上ったりで怒っている状態だった。ちなみにチトラールでの感染者は5月7日までで37名(Chitral News 7/5/2020)。

 

 カラーシャたちはチトラール全域が3月21日にロックダウンされるまでは、コロナウイルスについて一部の学生や町で働く若い人以外はほとんど知らず、私が手にキスするカラーシャの挨拶の代わりに肘を差し出すと不審がられたものだ。ロックダウン後は「世の中に怖い病気がはびこってきている」との話が行きわたったようで、ルンブール谷では3月末に2度、コロナウイルスを阻止する祈願が、聖域サジゴールと山羊小屋の屋根とで山羊、牛を犠牲に行われた。

 

 4月1日には村の自治長が夢を見たということで、3度目のコロナ阻止の祈願がバラングル村(65世帯)を挙げて12頭もの山羊を犠牲にして、その血が家庭の神ジェシタックに捧げられた。ジェシタック女神に捧げられた肉は女たちも食することができ、コロナの詳細を知らない女性は「そんな病気なんか、ここには入ってこないわさ。神さまが守ってくださるよ」と肉の分配でごったがえする中、ツバを飛ばして私に言った。「神さま頼りだけじゃダメだよ。そのウイルスはものすごく小さくて、その病気にかかった者のツバに何十万も潜んでいて、こんな人混みの中じゃあ、一人感染者がいるとあっという間に全部がかかってしまうんだから、うちらも努力せんことには」と脅かすと、彼女は黙ってしまった。

 

 その後も隣のボンボレット谷の長老たちが山羊を連れてコロナ阻止をサジゴールに祈願しにやって来たりと、一応のカラーシャの宗教/ 慣わしに沿った対応はしていたが、「2メートル距離を置く」ことに対しては全くの無視状態。村で若者が嫁さんを連れてきた、赤ん坊が生まれた、など新しいことが起きると、村だけでなく谷中から人がわぁっとお祝いに押しかけ、カラーシャの狭い母屋は人いきれでムンムンの状態だった。

 

 

 カラーシャの共同体が完全に外界から隔離されていれば問題はないのだが、本来、チトラール地方とディール地方の境界であるラワリ・トンネルでチトラール側に入った者はチトラールの町の数カ所のホテルで2週間隔離をされるところを、たまにペシャワールで働いていた若者がロックダウンで仕事が休みになり、こっそり実家に帰ってきてたりするので、油断は禁物なのだ。