コロナでずーとカラーシャ谷にこもりっきりで、気分がイマイチパッとしない。それに合わせ、2年ほど前から続いているアレルギー性と思われるクシャミと鼻水の治療?を兼ねて、チトラール地方で有名な温泉地ガラムチャシマに2泊3泊で、ヤシール、グリスタン、ヤシールの母さん、私の護衛ポリスのザルワリの総勢5名で訪れる機会を得た。
ガラムチャスマはチトラールの町から北西の方角に車でおよそ2時間。アフガニスタン国境に向けて走るたくさんの尾根沿いの村々を合わせると人口は5万人(1998年のデータなので、現在はもっと増えていると思われる)、教育熱心で勤勉なイスマイリ派の住民が多く、灌漑水路が標高2500メートル以上の畑を潤し、そこには春蒔き小麦、トウモロコシ、そして近年盛んになったジャガイモが作られている。今の時期はジャガイモの薄紫色の花が彩りを添えている。
この地域には温かい湯が噴き出ていて、各村にはコミュニティの洗濯場と男女別の沐浴場があるというが、メインバザールの裏手のスポットが規模が大きく、数軒のホテルもここにある。我々は、この地域の領主が経営するインジガン・ホテル ”Injgan Hotel & Restaurant” に泊まった。マネージャーがヤシールの知り合いなので、普段だったら高くて躊躇する宿代をかなり割引してくれるとのことだったので決心したのだ。
20年以上前に2度ほどこのホテルに来たことはあるが、数年前に建て直されて、すっかり豪華版になっていた。温泉プールもリノベーションされて綺麗になっているし、各部屋のバスタブには蛇口から50~60度の源泉が24時間出てくる。普通の綺麗なホテルの部屋のバスルームの西洋式のバスタブだから、日本の温泉宿のような風情は全くないが、昨年10月に日本から戻ってきてから、ずーとバケツ湯の掛かり沐浴するだけで、一度も風呂桶に浸かってない身としては興奮してしまう。お湯が十分溜まるのが待てず、10センチほどの浅いお湯にさっそく入り、西洋式のバスタブだからベターと底に仰向けになって、お湯をかけながら、持参した本なぞを広げて優雅な気分になろうと試みたが、本は濡れるし、英語の本だったんで内容がスラスラ頭に入らず、「温泉で優雅に読書」は一回目で諦めた。
ここの湯は皮膚によろしいということだが、ヌルヌル感はほとんどない。湯から上がった後の肌のツルツル感は気多少ある。私としては日に何度も湯に浸かる予定だったが、1日目は午後と夜に2回、2日目はグリスタンの知り合いのお家にランチを招かれたり、彼の親戚の高地に登った村に案内されるなど昼間出かけてしまったので、朝と夜の2度しか湯に浸かれなかった。ゆえに3日目の朝を入れて、計5回湯に浸かったことになる。後で地元の人から、温泉に浸かった後は、毛布などにくる待って体を暖かくして発汗をうながすのがここの湯治法と聞いたが、知らなかったので、逆に扇風機を付けて涼んでしまった。
別の部屋のグリスタンとお母さんには、バスタブにお湯の入れ方などを教えたものの、お湯の調節がわからずぬるかったのか、「汗なんて出やしない」とクシャミをしていた。ヤシールとザルワリはお湯を楽しんでいたようだが、本来カラーシャたちは夏は当然、冬ですら川の冷たい水で沐浴する輩もいるほどで、日本人の「お風呂の楽しみ」、「温泉に浸かる贅沢」への想いは理解してもらえないだろう。その昔ジャマットが日本に滞在したときにも彼は温泉が好きでなく、シャワーで済ませていた。そもそも浴場で、みんなの前でまっ裸になることが嫌だったよう。
丁重すぎるもてなし / Courtesy hospitality
ホテルのマネージャーさんが、食材を持ち込んでキッチンを好きに使って自分で調理していいと言ってくれたので、初日の夕食は、チトラールでやシールが買い込んだ牛肉と私がバザールで買って来た野菜で、「牛肉とピーマンの醤油味炒め」と「ポテトサラダ」を作った。
2日目はグリスタンの勤め先関係の方からランチを招待された。ヤギ肉ソテー、オクラ煮、ダール、ご飯の他に、チーラショッピック(ミルクのパン)という特別食が出された。これは大きいチャパティのような2枚のパンに、ヨーグルト汁から作ったチーズを挟め、その上に純粋ギーをかけたもので、敬意を表する客に出されるという。乳製品が大好きなカラーシャたちが喜んだのは言うまでもない。
このランチを3時過ぎだったので、夕食は軽くいこうと話していたのに、ヤシールの知り合いがヤギの肉を1キロ半差し入れしてくれた。これはホテルのマネージャーが調理してくれた。彼はドバイやマレーシアで10年以上料理人をしていた経験もあり、彼がテキパキとコックさんたちを指示して調理した。野菜がほしい私は昨日の残りの野菜で野菜炒めとサラダを作った。この他にチキンレッグのバーベキューも差し入れしてもらった。
実はこの日の夕食はナワブさんが招待してくれていたが、連絡の行き違いがあって我々は知らないままでいた。ナワブさんはここの有力実業家で、カラーシャ大好き人間。ジャマットの実兄と兄弟の契りを結んでからは、年に2、3度、家族を連れて、義兄や村人に会いにバラングル村を訪れているから我々は顔馴染みだ。夕食後にナワブさんはホテルを訪れて、我々に3日目はうちに泊まれと言う。私ややシールはチトラールでブログ更新他の用事があるので無理だが、ヤシールの母さんやグリスタンは泊まればいいのに、一緒に戻ると言う。
結局3日目は朝食をナワブさんの家で取るということになり、8時ごろ家族が迎えに来てくれ家に向かう。「チャイとパンと目玉焼きの簡単な朝食」と言ったのに、用意されたものを見てびっくり!ヤギの頭の塩煮、そのスープとミルクで煮たクルミ粉入りの小麦、チーラショッピック、ヨーグルト、チーズのスライス、ラッシー、地卵の目玉焼き、小麦パン、緑茶と、これまた豪華版。「こんなにもてなしてもらって、ナワブさんたちが村に来た時に我々は大したことができず面目ないよ」とヤシールの母さんが言う。
じわじわコロナウイルスが/Gradually Corona virus invading
とまあ、久しぶりの温泉風呂と地元の方々のおもてなしで、しょぼくれていた私の気分も明るく開いた感じだ。しかし現実は、例えばガラムシャスマでは4人のコロナ感染者が出ているというし、チトラールの私が使っている銀行のスタッフもペシャワールに出張して感染したので、他のスタッフ全員を検査するということで今銀行は閉鎖になっているし(お金がおろせず困っている)、イスラマバードの友人ファジアの家のコックさん夫婦も感染して隔離されている。ファジアの親しい友人でパキスタンで著名な女流詩人のKishwar さんも具合が悪いと言うので、検査してもらったら陽性だったという。パキスタンもコロナが減るどころか増えてきているようだ。