この狭い少数民族カラーシャの村に住む私も、便利だろうが電磁波のこと、個人情報のことを思うと怖い気もちょっとするインターネットがスマホを通してつながるようになり、世界中からのニュースや情報が入ってくることになって、これまでよりも世の中が広くなっている感がしている。でもやっぱり日本のことが気になって、おおかた日本の情報を見ることになってるけどね。
しかし入ってくる情報は、人間の欲によって引き起こされた環境破壊、環境汚染、戦争を前提とした新基地建設、核のゴミの処理方法もわからないのに小型原発を建設しようとしたり、爆発的に増えるコロナ感染、予期せぬ海底火山噴火とそれによって起きた津波、たまたま金を持っている人間が働きもしないでどんどん金持ちになり、一方であくせく働いても給料は上がらず物価ばかり上昇する、それでも日本の国民となると問題意識もなく選挙にも行かない、など落ち込むものばかりだ。
これからこの人間社会はどうなって行くのやら、と私が悩んでもどうしようもないが、将来が明るいものになる見通しは薄いように思う。そういう中、自分の足元を見て驚くのである。「AKIKOの家」、これはもちろん自分の家のことでもある。自分の部屋は二階に一室ある。一階は大部屋が「キラン図書室」兼多目的ホール、もう一つの部屋は「創作クラフト室」(こちらは2010年代の前半からテロ脅威、後半に脅威がなくなるとコロナ禍で外国人ツーリストが来なくなったので、村の女性たちとの活動は一時ストップして、自分だけで自分の部屋で時間が空いた時にやってるので、この部屋は警護の警官の寝室となっている)。
この足元の図書室が毎日大盛況なのである。昨年も盛況だったが、この冬は輪をかけてムンムンぐわんぐわん、ホットなのである。うちの村だけでなく向こうの村からも来るので、生徒たちが100人以上になることもある。いくら大部屋でも100人にもなれば、足の踏み場もなく、ゼロ年からカレッジの学生までそれぞれが声を出して本を読んでいたり、先生たちが大声で授業をしていたりで騒々しいの何のって、持ち込んだ私のパソコンの音声を最大にして耳を画面に近づけても音が全く聞こえない状態である。
低学年の生徒たちはみんなが行くから来ていることもあるようで、1時間もすると集中力がなくなり本を読むというより雑音を発したりうろついたりしていて、何だか幼稚園みたいじゃないかと思うこともある。しかし上級生は学校の教科書を持ってきて、ちゃんと真面目に勉強している。
歓迎することは、この度チトラール大学を首席で卒業したシャキール・カーンがボランティアで上級生の各クラスに教えるだけでなく(彼は前からボランティアで教えていた)、2年前から北部チトラールの高校で教員していて冬休みで里帰りしているミールザイルや、上流のヌーリスタン小学校の教員アジズも来て教えてくれている。片や青少年学級の教員アクバル・ブトーはコンピューターの基礎を上級生に教えているので、今や図書室というより、マルチ教室に変化しているようだ。
2010年代、「テロリストのパキスタン」と海外から思われていた頃には、NGOを運営する外国人(私)はテロリストに狙われる心配があるとチトラール警察に言われ、あまりおおっぴらに活動できず、子供たちの数は1月前半はいいものの、2月になると一桁の日もあり、このままキラン図書室は消滅して行くのではないかと内心危惧したこともある。だから、子供たちを図書室に惹きつけるために、自分で編集したカラーの祭りや日本の光景をDVDで観せたり、紙芝居をしたりしてソフト面で相当努力をしていた。
ずいぶん前は動画のDVDを買っていたが、次第にYouTubeで動画が見れるようになったので、チトラールの町に出てWifiのあるホテルに泊まり、動画を自分のパソコンにダウンロードしたのを、図書室のテレビで観せていたが、今は図書室のスマートテレビでスマホを通じて直接Youtubeが観れる。1日に5時間ほどしかスマホの電波が来ないこともよくあるとはいえ、ここのところの急激な環境進化に、私も楽チンになった実感がある。
ということで、私自身はパソコンで、村の子供や大人に観せたい動画のチェックをするのに、やたら時間を取られている。というか、そのついでにニュースを観たり、寄り道するから余計に時間を食わされるんだが。健康、ウルドゥー語・英語のアルファベット、環境汚染など、以前よりもたくさんのビデオソフトを見つけて、子供たちにぜひ観てもらいたいとウズウズしているのに、生徒の人数が多すぎて上映もできないでいる。
これはひとえに、長年、私が一時帰国している時にも、真面目に活動してくれているヤシールのおかげであるが、それだけでなく、自主的に勉強を教えてくれているミールザイルやシャキールカーンやアジズたちが盛り上げてくれているからだと思う。彼らはすべて学生時代にうちの図書室で読書や勉強した、言わばこの図書室の卒業生なのである。あっという間にこんなに立派に成長して、以前学んだ図書室で自主的に後輩たちを学習指導している姿になかなか感慨深いものがある。それとともに上級生たち(女子生徒が多い)の学ぼうという積極的な姿勢の力も大きいだろう。
低学年の蔵書の痛みが目立って来ているので、イスラマバードのNational Book Foundationで働き、ICLCI(国際識字文化センター・イスラマバード )代表をしているショーカット氏を訪ねて、本の新規購入などもしなければと思う。