私のハンディクラフト活動/ About my original Handicraft activity

 カラーシャの谷に暮らすようになって最も興味を持ったことの一つが、自給自足を基盤とした生活(当時)の中の手仕事、特にカラーシャ女性の独特の衣装作りであった。

 30数年前にボンボレット谷に来た頃、女性たちは今と同じく貫頭衣に帯を締め、頭飾りを被っていたが、今の派手派手な模様をこれでもかと縫い付けた衣装とは違って、黒布に襟や裾に少しの模様を施した貫頭衣に自家製の羊毛の帯、赤と白のビーズの幾重もの首飾り、子安貝、金具、赤いビーズの頭飾りは全体的にシックで伝統を感じさせるものだった。

 冬の時期には年配の女性たちは自家製の羊毛で織った黒茶色の貫頭衣を身に付けなかなか貫禄があった。子安貝を600個以上ほどこしたクパーズ(正装用の頭飾り)にはビーズの他に、古着のオーバーコートの金ボタン、様々な形の金具や鎖など、たまたま見つけた物や破片を飾りとして縫い付けていた。なかなかクリエイティブでそれぞれがユニークだった。

 

 それまで織物などやったことがなかった私だったが、荒削りの角材2本を立て掛けて、細い丸太を横に置いただけの大変シンプルな織り機で織る作業が新鮮で楽しくて、1990年代はかなりハマっていた。

 また織り機を使わないで胡坐をかいた姿勢で、セッティングした縦糸を肩から膝に掛けて織っていくシュマン(紐)織りも、どこででも座ってできるので気に入った。

 

 そういった織物を趣味としてやるうちに、織物や紐を使って何か小物を創り出す、つまりツーリスト向けのハンディクラフトをやろうと思い立つに至った。2006年、静江さんや日本の友人たちの協力を得て、「Akikoの家」の1階部を建てた際、大部屋を「キラン図書室」に、もう一つの部屋を「創作クラフト室」にして、手が器用な村の女性たち5~6人を集めて試行錯誤でスタートさせた。

 

 といっても女性たちは家事や畑の仕事があるので、本来の仕事を損なわないように、体が空いた時に日に2時間だけ働いてもらうことにした。乳飲み子を抱えていたり、妊娠中の女性、親族の不幸があって喪に服している女性(喪中は色のついた毛糸などに触れない習慣がある)は作業ができないので、どうしても多くて5~6人にしかならない。

 

 カラーシャの三谷では前々からハンディクラフトの店と謳いながらも、馬鹿の一つ覚えみたいに、ただカラーシャ女性の衣装をぶら下げているだけで、多くのツーリストからするとカラーシャ女性の衣装は見るのはいいが、あんなに重くてかさばるものをわざわざ買って持って帰りたいとは思わないだろう。ようやく最近、帯をリサイクルしたショルダーバッグも、店に並ぶようになった。ビーズやボンボンをつけてなかなかかわいいけれど、何せ仕上げが雑で実用的ではないので、パキスタン人ツーリストしか買わないだろう。

 

 

 これまでアジア各国をまわってきた経験で、土産物のハンディクラフトはとにかくかさばらない小物、旅先の特色を反映した物、求めやすい価格、を考慮して、静江さんや日本の友人の意見も取り入れながら、色々と試作品を作ってきた。

 

●山羊模様や織り紐をあしらったコースター

 

 カラーシャの生活で一番重要な冠婚葬祭。一年を通じてしょっ中何がしかの行事が行われている。祭りも多いが、婚姻の行事や、全く予期せぬ親戚の葬式もよくある。事実、6月からボンボレットとルンブールでは計4人の葬式があった。

 

 それらの冠婚葬祭では必ず山羊が捌かれ、チーズやギー、そして肉の塊りがもてなされる。葬式では30頭ほども山羊が犠牲にされ、牛も数頭捌かれる。神に祈願する祭礼でも山羊が捧げられ、山羊なしではカラーシャの宗教も持続できないといえる。神殿の壁や柱にもクルミと煤の墨汁で山羊の絵が独特なタッチで描かれている。

 

 その神殿の山羊の絵にヒントを得て、コースター に山羊の絵を施せばどうだろう。手廻しミシンの下糸ボビンに毛糸を巻いて、裏から縫うテクニックで絵を描いていくので、なかなか難し区はある。だいたい手廻しミシンの調子がすぐ悪くなるし、毛糸やミシン糸も画一ではないので、いつも問題が生じる。でもまあ、かえって手作業の味が出ていて、カラーシャらしいとも思う。

 

 

  山羊模様だけでなく、織り紐をあしらったコースターもなかなか綺麗だ。

 

●織り紐を織る過程

 座って肩から膝に縦糸を掛けて織る紐は、元来カラーシャ女性は白くて太い木綿糸を使って織っていた。だから出来上がった紐は、両端に模様を織り込むものの、当然白地の紐になる。地べたに座って織るので、白地の紐は洗濯しても汚れが取れないし、何かイマイチ両端の模様部分以外はクラフトに使いにくい。それで私は数色の毛糸を縦糸をセットするようにしている。

 

 白い木綿糸はチトラールの店で見つかるが、ちょうど良い太さと強さのアクリル毛糸はなかなか売ってない。それで4重巻きになっている毛糸を買ってきて、まず、糸縒り器で逆に縒りを戻し、縒りをなくしてまっすぐにする。

 

 

 縒りを取った4重の糸を2重ずつ、2つに分ける。

 

 

 2つに分けた2重の毛糸をそれぞれ糸縒り器で再び縒りをかける。

 

 縦糸に使う毛糸、全部を縒りを取って、2つに分けて、縒りをかけ直す。

 

 ようやく縦糸を掛けるまでにたどり着く。

 ここまでの作業、写真を撮るために自分でやったので、えらい時間を費やしてしまう。数日かかってしまった。縒り仕事は村の女性に賃金払って頼むことが多いが、彼女たちだと慣れているのでもっと速い。でも最低限の時間はどうしてもかかる。

 

 

●織り紐をあしらった試行錯誤の小物類

 

 携帯電話ケース

 2010年頃だったか、チトラール地方でも携帯電話が出回るようになった。でもルンブール谷にはまだ基地局がなくて、(固定電話線は現在に至るまでない)電話を使う時はチトラールの町まで出なければならなかったが、泊まった宿の部屋から電話できることは大変便利に感じた。特に今は亡き日本の母と電話で話せたのは良かった。

 

 

 しかし携帯電話もどんどん進化してきたので、2019年にサムスンのスマートフォンに買い換え、クラフトもスマホ用に試作。

 諸々の入れ物

 小さな薬入れ袋、ナプキン入れ、通帳入れ、筆入れ、ショールダーなど。

ぺったんこペンケース

 試行錯誤の中で10年ほど前に行き着いた物がペンケースである。黒布と裏布を袋縫いして、表布に織り紐を縫い付けて、太い毛糸で主な線を縫い、裏返して下糸ボビンに細くした毛糸を巻いて模様を縫い描く。ファスナーを付けて横側を縫うと、ぺったんこでちょうど良いサイズのペンケースや小物入れが出来上がる。

 

 

その他の創作小物

 クルミのストラップ

 クルミもカラーシャ生活で非常に重要なものだ。ただ割って食べるだけでなく、すりつぶしてクルミパンを焼いたり、豆煮の味付け入れたりする。また祭礼の際に割って神様に捧げたりもする。女性の浄めの儀礼では、5枚のクルミパンを手に、頭上に聖なるネズの枝葉の火でグルグルと3回お祓いしてもらう。食生活にも宗教上でもなくてはならないものだ。

 

 殻を半分に割ったクルミに綿と糸くずを入れて布で包んでビーズで飾ったストラップは、カラーシャの想い出に打ってつけだし、クルミは長寿のシンボルでもあるからお土産にぴったりだと思う。ストラップは日本から持ってくるがクルミはカラーシャ産。長く使えば使うほどクルミの殻は艶を出し美しくなる。