3日前のことになるが、上流の畑地に枝を広げるクルミの木々の収穫に、私も散歩がてら少しばかりクルミ拾いを手伝おうかと行ってみた。
上流に着いたら、3歳のマララビビが大泣きしていた。叩き落とされたクルミが腕に当たったらしい。高いところから直撃するクルミはかなり痛い。だから収穫中のクルミの木の下には近づかないことが原則だけど、子供は状況を理解せずついクルミを見たら拾いに行っちゃうのだろう。
マララビビの母さんがトウモロコシを収穫した後の畑に水入れする作業があるので、マララビビを見ていてくれと頼まれ、マララビビの手を引きながら、山の斜面に落ちてくるクルミの実を集める手伝いを手製のマイバッグいっぱいになるまでした。
日陰に座って一息ついてていたら、クルミの巨木が2、3本立つ下方がえらく騒がしい。その日は日曜で学校がないので、クルミ拾いに子供が大勢集まってきているのだ。男の子らはクルミの枝に残った実を撃ち落とすためにそれぞれパチンコを持っている。
わあわあ叫びながら、さかんにパチンコの石がクルミの枝に飛び交うので、見ると、黒い物が枝を伝って逃げている。リスよりも大きい。「何だろな」と思って見てるうちに、物体はピューんと空を飛んだ。それでムササビだとわかった。かなりの距離を飛行してムササビ君は別の木の低い幹に止まった。するとすかさず少年たちが追いかけて、今度は低い位置だからパチンコで当てるのが易しくなり、ムササビ君は口から血が出ていてけがをしてしまった。もう止めとけばいいのに少年らはまだパチンコで石を飛ばし続ける。
私は見かねて、「止めろー、止めなさい」と大声を出すが、みんな興奮してるのか聞こえないようなので、マララビビの手を引いて、ムササビ君が止まった木の近くまで走り寄って「止めろって言ってるでしょ。何で、弱いものいじめをするんだよ。これも神様が創った生き物。あんたたちも神様が創った生き物。命は一つ。あんたらもこの生き物も同じ。これがあんたたちに何をしたって言うの?ただ木の上にいるだけじゃないか」私も怒りで興奮して声が震えてきた。少年たちも私の怒りの本気度が伝わり、「だってクルミを食べるんだもん」などブツブツ言いながらも手を止めた。「クルミの1個や2個ぐらいあげなさいよ。クルミだって神様のもので、あんたたちが育てたわけじゃないでしょうが」
ほんとにそうだよ。ここではクルミは何の手入れもしなくても実を結んでくれるのだ。神様のお恵みそのものだ。
ちょうどやって来たワヒードが傷ついたムササビ君を掴んで、子供たちが届かない枯れたクルミの幹の上に置いてくれたが、かなりぐったりしていて死んでしまうかもしれない。ワヒードは小学校の先生なので、生き物を大事にするように学校で教えてくれればいいと私は言ったが、彼も「こいつらはクルミを食べるからな」と言って人間中心の考え方で同情の心はないようだ。
幹の上で動かなかったムササビ君は1時間ほど経った後、隣の大きな桑の木に移った。子供らがまた騒いだが、パチンコは打たなかった。傷が癒えてるわけではないようで、すぐそばなのに飛ばずに地面を這って木に登っていったようだ。元気になってくれればいいが。
その昔40年ぐらい前の日本で、わざわざムササビを見るために、友人らと夜の高尾山に行ったことを思い出す。その時ムササビが下方に飛行するのを生まれて初めて見たので、今回は2度目ということになる。顔を見たのは初めてだな。人間も動物も上手い具合に仲良く共存していける地球であってほしい。